こんにちは、内科医Kappaです。
血液内科医として勤務する中で、患者さんやご家族にとって、血液の病気や治療についてわかりやすく説明した情報がまだまだ不足していると感じています。
そこで今回は、悪性リンパ腫の治療で広く使用されている「R-CHOP療法」について、治療の流れやそれぞれのお薬の特徴、副作用などを説明したいと思います。
R-CHOP療法とは?
R-CHOP療法は、悪性リンパ腫の治療で広く使用されている代表的な化学療法です。
特に、悪性リンパ腫の中でも患者さんの数が多い「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)」の治療に長年使用されてきました。
近年では、Pola-R-CHP療法という新しい治療法も登場していますが、R-CHOP療法は現在でも重要な治療選択肢の一つです。Pola-R-CHP療法については別の記事で解説していますので、必要な方はこちらもご参考にしてください。

R-CHOP療法は、次の5種類のお薬を組み合わせた治療になります。
- リツキシマブ
- シクロホスファミド
- ドキソルビシン(別名:アドリアマイシン)
- ビンクリスチン
- プレドニゾロン
これらのお薬は、それぞれ異なる仕組みでリンパ腫の細胞を攻撃します。複数のお薬を組み合わせることで、より高い治療効果を得ることを目指しています。
R-CHOP療法の治療スケジュール
R-CHOP療法では、通常、1日または2日間の点滴と5日間の飲み薬を1セットとして治療を行います。
この1セットを「1サイクル」と呼び、通常は21日ごとに繰り返します。
治療回数は病気の種類や進行度によって異なりますが、DLBCLでは6サイクル程度行うことが一般的です。
治療期間は数か月に及びますので、患者さんにとっては長丁場の治療になります。
それでは、ここからそれぞれのお薬の特徴や副作用について説明したいと思います。
リツキシマブ(商品名:リツキサン)
リツキシマブは、CD20という細胞の表面にあるタンパク質を標的とする「抗体薬」という種類のお薬です。
CD20は主にリンパ球の一種であるB細胞の表面に存在しています。そのため、リツキシマブはB細胞を標的として攻撃するという特徴があります。
2000年頃に登場した画期的なお薬で、現在ではさまざまな種類のB細胞リンパ腫の治療に使用されています。
リツキシマブの主な副作用
特徴的な副作用に「インフュージョン・リアクション」があります。
これはリツキシマブを点滴しているときに起こる反応で、発熱、寒気、息苦しさ、血圧の低下などの症状が出ることがあります。特に初回の投与時に起こりやすいことが知られています。
インフュージョン・リアクションが起こった場合には、一度点滴を中断し、症状に応じた処置を行います。症状が改善すれば、状態を確認しながら投与を再開できることもあります。
一般的には2回目以降の投与では起こりにくくなりますが、注意は必要です。
また、CD20は病気のB細胞だけでなく、正常なB細胞にも存在しています。
B細胞は、体を感染症から守る「抗体」を作る仕組みに関わっています。そのため、リツキシマブによって正常なB細胞が減少すると、感染症にかかりやすくなることがあります。
一部の患者さんでは、治療後に抗体の量が低下することもあります。
さらに、重要な副作用としてB型肝炎ウイルスの再活性化があります。
過去にB型肝炎ウイルスに感染したことがある方では、治療によってウイルスが再び増殖し、肝炎を引き起こすことがあります。
そのため、リツキシマブを使用する前にはB型肝炎ウイルスの検査を行い、必要に応じて予防薬の使用や定期的な検査を行います。
シクロホスファミド(商品名:エンドキサン)
シクロホスファミドは、古くから使用されている抗がん剤の一つです。
細胞のDNAにダメージを与えることで、リンパ腫の細胞が増えるのを防ぎます。
ただし、リンパ腫の細胞だけでなく、正常な細胞にも影響するため、特に細胞の入れ替わりが活発な組織では副作用が出やすくなります。具体的には、口の粘膜、腸、髪の毛などが影響を受けやすく、口内炎、吐き気、下痢、脱毛などの副作用が出ることがあります。
また、骨髄にも影響するため、白血球などの血液細胞が減少する原因にもなります。
そのほか、出血性膀胱炎という副作用も知られていますが、R-CHOP療法で使用する量では比較的まれです。
妊娠するための機能(妊孕性)に影響する可能性もあるため、将来の妊娠や出産を希望される方は、治療開始前に主治医と相談することが大切です。
シクロホスファミドは無色透明の液体で、通常は点滴で投与します。
ドキソルビシン(別名:アドリアマイシン、商品名:アドリアシン)
ドキソルビシンは、アドリアマイシンとも呼ばれる抗がん剤です。
医師によって呼び方が違うこともありますが、同じお薬を指しています。
こちらも古くから使用されている抗がん剤の一つで、リンパ腫の細胞を攻撃する効果が高く、R-CHOP療法の中でも重要なお薬です。
ドキソルビシンで特に注意が必要なのは、心臓への副作用です。
投与量が増えるほど心臓の働きが低下するリスクが高くなるため、生涯に投与できる合計量には目安があります。また、もともと心臓に病気がある方や高齢の方では、特に慎重な判断が必要になります。そのため、治療前には心臓超音波検査などを行い、心臓の働きを確認することがあります。
そのほか、吐き気、脱毛、口内炎などの副作用もあります。
ドキソルビシンは赤く透き通った液体で、点滴で投与します。
赤い色が特徴的なお薬で、投与後しばらくは尿が赤色やオレンジ色になることがあります。これはお薬の色によるもので、通常は時間とともに元に戻ります。
ただし、血尿など別の原因による尿の色の変化もありますので、気になる場合には医療スタッフに相談してください。
ビンクリスチン(商品名:オンコビン)
ビンクリスチンも、古くから使用されている抗がん剤の一つです。
細胞が分裂するときに必要な仕組みを妨げることで、リンパ腫の細胞が増えるのを防ぎます。
ビンクリスチンで特徴的なのは、神経への副作用です。
特に手先や足先のしびれが起こりやすく、人によっては指先の細かい動きが難しくなることもあります。例えば、シャツのボタンを留めにくくなったり、箸を使いにくくなったりする方もいます。日常生活に支障が出る場合には、ビンクリスチンの量を減らしたり、投与を中止したりすることがあります。
また、腸を動かす神経にも影響するため、便秘になりやすいという特徴もあります。
神経の障害は回復するまでに時間がかかることがあり、治療が終わった後もしびれなどの症状が残る場合があります。
そのため、症状がひどくなる前に対応することが大切です。
手足のしびれや便秘の程度については、治療のたびに主治医に伝えていただくとよいと思います。
ビンクリスチンは無色透明の液体で、点滴によって投与します。
プレドニゾロン(商品名:プレドニン)
プレドニゾロンは、いわゆる「ステロイド」と呼ばれるお薬です。
ステロイドにはさまざまな作用がありますが、リンパ腫の細胞を死滅させる効果もあるため、R-CHOP療法の治療薬の一つとして使用されています。
また、ステロイドには吐き気を抑える効果もあるため、ほかの抗がん剤による吐き気を軽減する役割もあります。点滴で投与することもありますが、R-CHOP療法では通常、飲み薬として5日間使用します。
プレドニゾロンをはじめとするステロイド薬には、さまざまな副作用があります。
まず、胃の不快感や胃痛などが起こることがあります。患者さんの状態によっては、胃酸を抑えるお薬を一緒に使用することもあります。
次に、血糖値が上がりやすくなることです。特に糖尿病のある方では血糖値が大きく上昇する場合があるため、注意が必要です。また、もともと糖尿病がない方でも、血糖値が上昇することがあります。
さらに、不眠も比較的よく見られる副作用です。人によっては寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めたりすることがあります。また、気分が高揚したり、反対に気分が落ち込んだりすることもあります。
R-CHOP療法では通常5日間の内服ですが、この短い期間でも副作用が起こることがあります。
眠れない日が続く場合などには、お薬で対応できることもありますので、遠慮せずに主治医に相談してください。
R-CHOP療法全体で注意したい副作用
ここまで、それぞれのお薬の特徴や副作用について説明してきました。
しかし、R-CHOP療法では、複数のお薬を組み合わせることで起こる副作用にも注意が必要です。
特に重要なのが、血液の細胞が減少する「骨髄抑制」と、それに伴う感染症です。
白血球や好中球の減少
R-CHOP療法では、リンパ腫の細胞だけでなく、正常な血液の細胞を作る骨髄にも影響が出ます。そのため、治療開始から1〜2週間ほど経過した頃に、白血球などの血液細胞が減少することがあります。
特に注意が必要なのが、白血球の一種である「好中球」の減少です。好中球は、細菌などから体を守る重要な役割を持っています。そのため、好中球が少ない時期に感染症にかかると、重症化する危険性があります。場合によっては、感染症が全身に広がり、敗血症という重い状態になることもあります。
こうした副作用を予防するために、G-CSFという白血球の一種である好中球を増やすお薬を注射することがあります。
治療中に熱が出たら?
R-CHOP療法を受けている間に、特に注意していただきたい症状の一つが発熱です。好中球が減少している時期に発熱した場合には、速やかな対応が必要になることがあります。そのため、治療中に発熱した場合には、自己判断で様子を見ず、医療機関へ連絡してください。
何度以上の発熱で連絡するか、夜間や休日にはどこへ連絡するかについて、あらかじめ主治医や看護師に確認しておくことが大切です。
また、発熱がなくても、強い寒気や息苦しさ、ぐったりするなどの症状がある場合には、速やかに医療機関へ相談してください。
日和見感染症
R-CHOP療法では、好中球の減少だけでなく、免疫力が全般的に低下することがあります。そのため、普段はあまり問題にならない微生物による感染症にも注意が必要です。
このような感染症を「日和見感染症」と呼びます。
代表的なものの一つに、ニューモシスチス肺炎があります。これは免疫力が低下した方に起こりやすい肺炎で、重症化することもあります。そのため、患者さんの状態や治療内容によっては、ニューモシスチス肺炎を予防するお薬を使用することがあります。
まとめ:R-CHOP療法は長年使用されてきた重要な治療法
R-CHOP療法は、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫をはじめとするB細胞リンパ腫に対して、長年使用されてきた重要な治療法です。
これまでに紹介したように、R-CHOP療法にはさまざまな副作用があります。しかし、副作用の多くは、適切な予防や早期の対応によって症状を軽減することができます。
特に大切なのは、治療中に気になる症状があれば、遠慮せずに主治医や看護師に伝えることです。
副作用の程度によっては、お薬の量を調整したり、症状を和らげるお薬を追加したりすることもできます。
R-CHOP療法は、すべての患者さんに同じような効果が得られるわけではありませんが、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫では、治癒を目指すことができる治療法です。
治療期間は数か月に及ぶため、患者さんにとっては長く感じられるかもしれません。
治療の効果だけでなく、日常生活や副作用についても医療スタッフと相談しながら、治療を進めていただければと思います。
※この記事はR-CHOP療法について一般的な情報を説明したものです。実際の治療内容や副作用への対応は、患者さんの病状や体調によって異なります。個別の治療方針については、主治医にご相談ください。

