身近な血液の異常 貧血

本日は医学生さん、研修医の先生向けに診療のワンポイントについてお伝えしたいと思います。今回は「貧血」について考えたいと思います。

CBC(血算)に関わる最も一般的な異常は貧血と思います。皆さんは貧血を見たら鉄剤出して終わりにしていませんか。もちろん、最も多い貧血の原因は出血や鉄欠乏ですが、それ以外にもたくさんの貧血の原因疾患があります。今回は貧血についてどのようにアプローチしていくのか考えていきましょう!

ちなみに汎血球減少の場合は血液疾患の場合が多いですので、急ぎ目に血液内科へコンサルとしましょう(きっと嫌な顔はしないと思います)。

 

まずは網状赤血球数を測定

貧血を見た際に必ず見ておかなければならない項目が「網状赤血球数」になります。なかなか血液内科医以外では測定しないと思いますが、本来は貧血の患者全員で測定しなければならない項目です。CBCを出していれば検査室では自動で計測していますので、基本的には後から追加も可能な項目です。貧血とわかった場合には検査部に網状赤血球の追加を相談してみましょう。

網状赤血球とは赤芽球から分化したばかりの出来立て赤血球です。網状赤血球数を測定する事は赤血球をどれだけ作っているかを知ることができます。この時に網状赤血球が増えていれば作っているけど壊されている・出ていく病気(出血、溶血性疾患など)、網状赤血球が減っていれば作れない病気(血液悪性腫瘍、巨赤芽球性貧血など)が考えられます。お風呂のお湯が貯まらないことを想像してみましょう。お風呂の蛇口が捻ってあってもお風呂の栓が抜けていればお風呂の水はたまりませんし(網状赤血球増加の貧血)、蛇口が捻られてなければお風呂の水はたまりません(網状赤血球低下の貧血)。

現実的にはそこまでクリアカットに分けられるわけではないのですが、網状赤血球数が10万/μLを超えていれば出血や溶血性貧血の可能性が高く、逆に網状赤血球数が3万/μL以下ならば造血能の低下を起こす疾患の可能性が高いと思います(注:筆者の経験談)。

網状赤血球が高い場合には、生化学検査でLDH, ビリルビン、ASTなどが高くないか確認してみましょう。高い場合はハプトグロビンの検査を追加し、ハプトグロビンが低下していれば溶血性貧血の可能性が高いため、血液内科にコンサルトしましょう。貧血が酷く、LDHやビリルビンが高ければ即相談でも良いです。特に溶血を示唆する所見がなければ、出血している可能性が高いですので、若年女性であれば生理の状況を確認、男性や閉経後の女性であれば黒色便の有無等を確認し内視鏡を予定しましょう。

ちなみに網状赤血球の検査を出すと、網状赤血球の割合として結果が出ます。造血の状態を正確に評価するには絶対数の方が大切なので、赤血球数✖︎網状赤血球割合で計算してみましょう。

 

網状赤血球が高くない場合はMCVに注目!

網状赤血球数がそれほど上昇していない場合には、次にMCV(平均赤血球容積)に注目します。こちらもCBCの検査を出せば自動的に結果が出ます。MCVの大きさに応じて鑑別診断が変わってきます。

MCVが120を超えるようなかなりの大球性貧血の場合には、十中八九「巨赤芽球性貧血」です。ビタミンB12や葉酸の測定をしましょう。一方でMCV100-110くらいの軽い大球性貧血は鑑別が多岐に渡ります。この場合は血液内科に相談で良いでしょう。

MCV正常の正球性貧血の場合には、肝機能や腎機能、甲状腺機能をみてみましょう。通常は腎性貧血の場合が多く、腎機能が低下(GFR<60ml/min)していればエリスロポエチン値を測定しみても良いでしょう。これらが異常なければ血液疾患の可能性もあるので、血液内科相談です。

MCVが低い小球性貧血の場合は多くが鉄欠乏性貧血です。血清鉄、TIBCもしくはUIBC、フェリチンの測定をしてみましょう。血清鉄低値、TIBC(UIBC)高値、フェリチン低値の所見ならば鉄欠乏性貧血で確定です。鉄剤内服を開始しましょう。この時に、血清鉄低値、TIBC(UIBC)高値、フェリチン高値の所見であったら、慢性炎症に伴う貧血の可能性があります。慢性炎症を起こす背景疾患がないか(膠原病等)を精査してみましょう。血清鉄、TIBC(UIBC)、フェリチン全てが正常の場合はサラセミアの可能性があります。全力で血液内科コンサルトしましょう。

 

注目すべきポイントは2つ!

貧血の患者さんがいた場合に、血液内科医以外の方が見るべき大きなポイントは3つしかありません。網状赤血球数は?MCVは?この2点に注目するだけで、自分で対応できる貧血かどうか見分けがつきます。CBCを深く読み込んで華麗に貧血の鑑別をしてしまいましょう!

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