急性前骨髄球性白血病(APL)とは?症状・検査・治療について

こんにちは、内科医κです。

今回は「急性前骨髄球性白血病(APL)」という病気についてお話ししたいと思います。

急性前骨髄球性白血病は、白血病の中でも比較的珍しい病気です。しかし、ほかの急性骨髄性白血病とは異なる特徴があり、治療方法も大きく異なります。特に、診断された直後の対応が非常に重要な病気です。

今回は、この急性前骨髄球性白血病について、病気の特徴や検査、治療方法をできるだけわかりやすく説明していきたいと思います。

珍しい白血病「急性前骨髄球性白血病」とは?

白血病には、大きく分けて「骨髄性」と「リンパ性」があります。急性前骨髄球性白血病(APL)は、このうち「骨髄性」に分類される白血病で、急性骨髄性白血病(AML)の一つです。

急性骨髄性白血病全体の特徴や、症状・検査・治療については、急性骨髄性白血病(AML)の解説記事で詳しく紹介しています。 あわせて読んでいただくと、APLがどのような位置づけの病気なのか、理解しやすくなると思います。

ただし、急性前骨髄球性白血病は、ほかの急性骨髄性白血病とは病気の特徴や治療方法が大きく異なるため、特別な病型として扱われています。

1990年代に活躍した格闘家のアンディ・フグさんが、この病気で亡くなられたことをご存じの方もいるかもしれません。

急性前骨髄球性白血病は、以前は治療が難しい病気でした。しかし、現在では治療法が大きく進歩し、多くの患者さんで寛解を得られるようになりました。また、適切な治療によって治癒を目指すことができる病気でもあります。

一方で、診断された直後には重い出血などが起こる危険性があるため、早期の診断と治療が非常に重要です。それでは、どのような病気なのか、順番に見ていきましょう。

どのような症状が出る?

急性前骨髄球性白血病の大きな特徴の一つが、「出血しやすくなること」です。

急性前骨髄球性白血病では、白血病細胞の影響によって、血液を固める仕組みと血の塊を溶かす仕組みに異常が生じることがあります。このような状態を「播種性血管内凝固症候群(DIC)」と呼びます。

DICが起こると、歯茎や鼻から出血したり、皮膚にあざができやすくなったりすることがあります。また、重症の場合には、脳出血などの重大な出血を起こすこともあります。

ただし、すべての患者さんに明らかな出血症状が現れるわけではありません。血液検査で凝固異常が見つかり、APLが疑われる場合もあります。

また、ほかの急性白血病と同じように、骨髄の中で白血病細胞が増えることで、正常な血液細胞を十分に作れなくなることがあります。その結果、赤血球が減って貧血による息切れやだるさが出たり、正常な白血球が減って感染症にかかりやすくなったりします。血小板も減少することが多く、これも出血しやすくなる原因の一つです。

どのような検査をする?

まず、血液検査で白血球、赤血球、血小板の数や、血液を固める働きに異常がないかを調べます。

また、血液を顕微鏡で観察すると、急性前骨髄球性白血病に特徴的な白血病細胞が見つかることがあります。特に、白血病が疑われる患者さんで強い凝固異常が見られる場合には、急性前骨髄球性白血病の可能性を考える必要があります。

急性前骨髄球性白血病が疑われた場合には、通常、「骨髄検査」を行います。骨髄検査では、骨の中にある骨髄液などを採取し、白血病細胞の特徴を詳しく調べます。

さらに、急性前骨髄球性白血病では、「PML::RARA」という特徴的な融合遺伝子が見つかることがほとんどです。融合遺伝子とは、通常は別々に存在する2つの遺伝子がつながることで生じた異常な遺伝子のことです。

そのため、血液や骨髄液を用いて、このPML::RARAという融合遺伝子があるかどうかを調べます(RT-PCR検査やFISH検査と呼ばれる検査です)。

ただし、急性前骨髄球性白血病では、検査結果が出るまで治療を待つことが危険な場合があります。そのため、急性前骨髄球性白血病が強く疑われた場合には、遺伝子検査の結果が出る前から治療を開始することがあります。

どんな治療を受ける?

急性前骨髄球性白血病の初回治療では、「全トランス型レチノイン酸(All-trans retinoic acid)」というお薬が非常に重要な役割を担います。一般的には、略して「ATRA(アトラ)」と呼ばれています。

ATRAは、白血病細胞が成熟する過程を促す「分化誘導療法」という仕組みで作用します。通常の抗がん剤が細胞を直接攻撃するのに対して、ATRAは白血病細胞の成熟を促すという、少し変わった仕組みを持っています。

また、ATRAによる治療は、急性前骨髄球性白血病に伴う凝固異常の改善にもつながります。このような特徴から、ATRAは急性前骨髄球性白血病の治療に欠かせないお薬となっています。

ATRAと抗がん剤を組み合わせた治療

日本では、ATRAに加えて、イダルビシンなどのアントラサイクリン系抗がん剤を組み合わせた治療が行われています。

抗がん剤には、吐き気や脱毛、下痢などの副作用があり、正常な血液細胞も減少するため、感染症や出血などに注意が必要です。

また、治療開始直後は、白血病細胞の変化に伴って凝固異常が変動することがあります。そのため、血小板や血液を固める成分を補充する輸血などを行いながら、慎重に治療を進めていきます。

注意が必要な副作用「分化症候群」

ATRAによる治療で、特に注意が必要な副作用の一つが「分化症候群」です。

分化症候群は、治療によって白血病細胞が成熟する過程で、体の中に炎症のような反応が起こることで発症すると考えられています。

発熱、息切れ、呼吸困難、体重増加、むくみ、血圧低下などの症状が見られることがあります。重症になると呼吸不全などを起こす場合もあるため、早期に発見して治療することが重要です。

分化症候群が疑われた場合には、速やかにステロイド薬などによる治療を行います。また、症状が重い場合には、ATRAを一時的に中断することもあります。ただし、分化症候群が起こったからといって、必ずしも治療を中止するわけではありません。症状の程度などに応じて対応を判断します。

治療開始直後がとても大切

急性前骨髄球性白血病は、現在では治癒を目指せる病気になっています。しかし、診断された直後には、DICによる重大な出血や、治療開始後の分化症候群などに注意が必要です。

特に、治療開始直後は病気による凝固異常が十分に改善していないこともあり、慎重な管理が必要になります。そのため、急性前骨髄球性白血病では、できるだけ早く適切な治療を開始するとともに、輸血などの支持療法を十分に行うことが重要です。

個人的には、診断後の最初の1週間が非常に大切な期間だと考えています。この時期を安全に乗り越えることが、その後の治療を進めていくうえでも重要になります。

まとめ

急性前骨髄球性白血病(APL)は、急性骨髄性白血病の一つですが、ほかの急性骨髄性白血病とは異なる特徴を持っています。特に、血液を固める仕組みに異常が生じ、出血しやすくなることが大きな特徴です。

一方で、ATRAを中心とした治療法が登場したことで、治療成績は大きく改善しており、多くの患者さんで治癒を目指すことができるようになっています。

ただし、診断直後には重大な出血などが起こる危険性があるため、早期の診断と治療、そして慎重な全身管理が重要です。

急性前骨髄球性白血病は、治療法の進歩によって大きく予後が改善した病気の一つです。病気や治療について不安なことがあれば、主治医や医療スタッフと十分に相談していただければと思います。

急性白血病には、今回ご紹介したAPLを含む「急性骨髄性白血病(AML)」のほかに、「急性リンパ性白血病(ALL)」もあります。同じ急性白血病でも、白血病細胞の種類によって、病気の特徴や治療方法が異なります。

それぞれについて詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。

※この記事は急性前骨髄球性白血病について一般的な情報を説明したものです。実際の検査や治療方針は、病気の状態や患者さんの体調などによって異なります。個別の診断や治療については主治医にご相談ください。

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