急性前骨髄球性白血病 

こんにちは、内科医κです。

血液内科医として勤務する中で、患者さんや研修医の先生向けの血液の病気についての情報が不足していると感じており、少しでもお役に立てればと情報発信しています。

珍しい白血病 急性前骨髄球性白血病とは?

白血病には「骨髄性」と「リンパ性」の二つのタイプがあると以前の記事で述べましたが、急性前骨髄球性白血病は「骨髄性」白血病の仲間になります。ただし、症状や治療がそのほかの骨髄性白血病と異なるため、別の病気として扱われています。

1990年代に活躍した格闘家のアンディ・フグさんが命を落とした病気としてご存知の方もいるのではないかと思います。アンディ・フグさんは残念ながら亡くなられてしまいましたが、現代では約9割ほどの患者さんが寛解(白血病の細胞が検査で検出できないレベルまでいなくなること)を得ることができます。

次にどのような病気か見ていきましょう。

どのような症状が出る?

この病気の最大の特徴は「血が止まらない」ことです。白血病の細胞が出す物質によって、血液を固める力と溶かす力が異常を起こします。これを播種性血管内凝固症候群、DICと呼びます。DICによって、何もしなくても歯茎や鼻から血が出てしまったり、皮膚にたくさんのあざができるといった症状が出ます。

また、血液を作る場所である骨髄の中で白血病の細胞が異常に増えていくため、正常な血液を作ることができず貧血になります。また正常は白血球もほとんどいなくなるため、感染症に非常に弱くなります。

どのような検査をする?

まず、血液検査で血液の細胞の数や種類を検査します。血液を顕微鏡で見ると急性前骨髄球性白血病の細胞が見つかることがあります。そのほか、血液検査でDICがあるかどうかを調べます。急性前骨髄球性白血病では非常に強いDICが起こるため、非常に強いDICがある場合も急性前骨髄球性白血病を疑うサインになります。

血液検査で急性前骨髄球性白血病が疑わしいとなったら、「骨髄検査」を行います。骨髄検査で骨髄の中に急性前骨髄球性白血病に特徴的な白血病の細胞がたくさんいれば確定診断となります。

また、急性前骨髄球性白血病は一部例外はありますがPML-RARαという異常な融合遺伝子によって引き起こされる病気です。そのため、血液や骨髄液でPML-RARαの遺伝子があるかどうかの検査(RT-PCR検査、FISH検査と呼ばれる検査です)を行うことによっても急性前骨髄球性白血病の診断をすることができます。

どんな治療を受ける?

急性前骨髄球性白血病の初回治療では全トランス型レチノイン酸(All-trans retinoic acid)、略してATRA(アトラと呼びます)というお薬が非常に重要な役割を担います。ATRAには急性前骨髄球性白血病を無害な細胞へ誘導する力があり、一般的な抗がん剤のような吐き気や髪の毛が抜ける、下痢等の副作用はほとんどないという特徴があります。また、ATRAは急性前骨髄球性白血病によるDICを緩和する作用もあるとされていて、白血病自体の治療とDICの治療を兼ねることができます。

ATRAによる治療を受けるときに最も注意すべき副作用は「分化症候群」と呼ばれる副作用です。ATRAの治療を受け始めた時に発熱、呼吸困難、血圧低下などの症状が出た際には分化症候群の可能性があり、ATRAによる治療を一時的に中止する場合があります。

ATRAに加えてアントラサイクリン系(イダルビシンなど)と呼ばれる抗がん剤も初回治療に使用します。抗がん剤による治療では分化症候群は起きないため、分化症候群の症状が強い場合には抗がん剤が治療の主体となります。抗がん剤の副作用には一般的に知られている吐き気、髪の毛が抜ける、下痢、などがあります。また、抗がん剤を使用するとDICが悪化することが知られていて(白血病細胞が壊れてDICを起こす物質が血液中に出て行ってしまうため)、DICがあまり悪化しないように調整する必要があります。

ATRAとアントラサイクリン系を組み合わせた治療によって、先ほど述べたように約90%の人が寛解に入ります。全員が寛解に入らない1番の理由は、治療開始時期のDICによって臓器出血(主に脳出血)を起こしたり、分化症候群によって呼吸不全などを発症して亡くなってしまうためです。個人的には診断後の最初の1週間が非常に大切な期間と考えています。

 

※この記事は日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドラインを参照して作られています。

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