こんにちは、内科医κです。
血液内科医として勤務する中で、患者さんや研修医の先生向けの血液の病気についての情報が不足していると感じており、少しでもお役に立てればと情報発信しています。
R-CHOP療法とは
悪性リンパ腫の中で最もよく使われる治療の名前です。特に、最も病気になる人が多いリンパ腫であるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療に使われます。リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン(別名:アドリアマイシン)、ビンクリスチン、プレドニゾロンの5つのお薬を組み合わせた治療になります。たくさんの薬を組み合わせることで、副作用を少なくして有効性を最大限に高める狙いがあります。
R-CHOP療法は1日もしくは2日間の点滴と5日間の飲み薬を1セットとして、この1セットを21日ごとに繰り返します。そして、この1セットを6-8回行います。治療期間は半年近くになり、長丁場の治療になります。
ここからそれぞれのお薬の特徴や副作用についてまとめてみたいと思います。
リツキシマブ(商品名:リツキサン)
リツキシマブはCD20という細胞の表面に出ているタンパク質だけを狙って攻撃する抗体薬という種類のお薬です。基本的にはCD20はリンパ球の一種のB細胞にしか出ていません。そのため、B細胞のみを攻撃するという特徴があります。2000年頃に出てきた画期的なお薬で、様々な種類のB細胞のリンパ腫に使われています。
特徴的な副作用にインフュージョン・リアクションがあります。最初に投与する時に起こりやすく、リツキシマブの投与中に熱が出たり寒気がしたり、息苦しくなったり、時には血圧が下がったりする症状が出ます。インフュージョン・リアクションが出た時には一度リツキシマブの投与を止めて、症状が良くなってからまた投与を始めます。2回目の投与からはインフュージョン・リアクションは出にくくなります。
CD20は病気のB細胞だけでなく、病気でない正常なB細胞にも出ているので、リツキシマブは正常なB細胞も攻撃してしまいます。B細胞は免疫にとても重要な「抗体」というタンパク質を作る役割がありますので、長期に使用すると体の抗体の量が少なくなっていき、体の免疫力が低下するという副作用もあります。
シクロホスファミド(商品名:エンドキサン)
古くから使用される抗がん剤の一つです。そのため、病気のB細胞だけでなく、正常な組織にもダメージを与えてしまいます。特に組織の入れ替わりが早い場所、具体的には口の粘膜、腸、髪の毛などがダメージを受けやすいです。そのため、口が荒れる、吐き気、下痢、髪の毛が抜けるなどの副作用が出てきます。無色透明の液体の点滴で、30分-2時間くらいかけて投与します。
アドリアマイシン/ドキソルビシン(商品名:アドリアシン)
アドリアマイシン、ドキソルビシンという二つの呼び方があり、医師によっても呼び方が違うかと思います。こちらも古くから使用される抗がん剤の一つになります。リンパ腫の細胞を倒す効果が高い重要なお薬の一つになります。しかし、たくさん投与すると心臓に副作用が出て心不全を発症してしまうため、投与できる合計量が決まっています。また、心臓が悪い人や高齢の方ではすぐに副作用が出てしまうため、心臓病がある方や高齢の方には投与することが難しいお薬になります。赤く透き通った液体の点滴で5-30分くらいで投与します。
ビンクリスチン(商品名:オンコビン)
こちらも古くから使用される抗がん剤の一つになります。比較的副作用は軽めとされていますが、正常な神経組織へのダメージが出やすいという特徴があります。特徴的な副作用として、手先や足先のしびれがあります。人によっては副作用でボタンを止められなくなる方も出てきますので、日常生活で不自由が出てくる場合にはビンクリスチンの量を減らす必要があります。また、腸を動かす神経もダメージを受けるため、便秘になりやすいという特徴があります。
神経はなかなか回復しにくい臓器のため、ビンクリスチンの副作用は治療が終わった後も残る傾向があります。ひどくなりすぎる前にビンクリスチンの量を減らす必要があるため、便秘や手足のしびれの程度については治療毎に主治医に伝えると良いと思います。
無色透明の液体でゆっくりと注射器で投与するか、点滴で5分ほどかけて投与します。
プレドニゾロン(商品名:プレドニン)
いわゆるステロイドホルモンと呼ばれるお薬です。リンパ腫の細胞はステロイドホルモンによって死滅しますので、治療薬の一つとなっています。また、ステロイドには吐き気を抑える効果もあるため、シクロホスファミド、アドリアマイシン、ビンクリスチンの吐き気の副作用を減らす効果もあります。点滴で投与することもありますが、通常は飲み薬で処方されます。
プレドニゾロンをはじめとするステロイド薬には多くの副作用があります。まず、一つ目は胃に負担があることです。多くの場合、胃酸を抑えるお薬を一緒に飲みます。2つ目に血糖値が上がりやすくなることです。ただし、元々糖尿病がない人はそこまで気にしなくて大丈夫です。3つ目に不眠になりやすいことです。人によっては睡眠導入剤があった方が良いと思います。その他にもたくさんの副作用がありますが、5日間の内服なのであまり気にしなくても大丈夫かと思います。
その他、全般的な副作用として
R-CHOP療法はB細胞という血液の細胞の一種を一番効率的に倒す治療法です。そのため、どうしても正常な血液の細胞も同じようにダメージを受けてしまいます。そのため、治療開始して10-14日目のあたりで血液の細胞が少なくなる副作用が強く出ます。特に体を守る兵隊の役割をする白血球と呼ばれる細胞が一番減りやすいです。白血球が減っている時に体の中に悪い細菌が入り込むと重症化しやすく注意が必要です。場合によっては細菌が血液に入り込んで全身を巡って悪さをする敗血症という病気になり、命を落とす可能性もあります。そうならないように白血球を増やすお薬を注射することもあります。
また、治療を受けると免疫力が全般的に低下してしまい、普通の人がかからない感染症(これを日和見感染症と呼びます)にかかりやすくなります。特にニューモシスチス肺炎という病気が有名で、この病気にかかると命を落とす可能性があります。そのため、予防のお薬を飲んでもらいます。
まとめ:R-CHOP療法は最もバランスの良い治療
上記のようにたくさんの副作用はありますが、どれも対応可能な副作用であり、主治医とコミュニケーションを取ることで、比較的安全に治療を行うことができます。有効性も比較的高く、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対してR-CHOP療法を使用した場合には、約6割の人が5年間再発なく過ごすことができます。