多発性骨髄腫 概要と検査、治療について

こんにちは、内科医κです。

血液内科医として勤務する中で、患者さんや研修医の先生向けの血液の病気についての情報が不足していると感じており、少しでもお役に立てればと情報発信しています。

 

多発性骨髄腫 どのような病気?

「多発性骨髄腫」は血液悪性腫瘍の中で3番目に多い病気ですが、白血病やリンパ腫に比べてあまり知られていない病気かと思います。今回はこの多発性骨髄腫について説明したいと思います。

多発性骨髄腫は抗体を作る形質細胞が悪性腫瘍(がん)となった病気です。新型コロナウィルスのワクチンを接種するとウィルスに対する「抗体」が作られる、とニュース等で聞いたことがあると思います。このように抗体は体を守る重要な物質です。このように形質細胞は免疫において重要な役割を担っているのですが、その形質細胞が悪性腫瘍になることでいろいろな症状が出ます。

多発性骨髄腫には4つの特徴的な症状があります。1人の患者さんに4つすべての症状が出ることはほとんどないのですが、4つのうち1つの症状は必ず出てきます。

まず一つ目は貧血です。骨髄腫細胞が血液を作る場所である骨髄の中で増えることで、うまく血液を作ることができなくなるためです。

二つ目に体の老廃物を取り除く臓器である腎臓の機能が落ちてしまします。これを腎機能障害と呼びます。骨髄腫細胞が出す異常なタンパク質が腎臓の尿細管と呼ばれる管に詰まってしまうためです。

三つ目に高カルシウム血症があります。高カルシウム血症とは、血液の中のカルシウムの濃度が異常に高い状態のことです。骨髄腫の細胞が骨にくっついてるカルシウムを溶かして血液中に出してしまうことで高カルシウム血症になります。高カルシウムになると尿がたくさん出て脱水状態になる、意識が朦朧とするなどいろいろな症状が出てきます。

四つ目に骨が非常に脆くなってしまいます。骨髄腫の細胞が骨をもろくするような指令を出してしまうためです。そのため、圧迫骨折をたくさん起こしてしまいます。

このように多彩な症状が出てしまう非常に厄介な病気です。それぞれの症状が多発性骨髄腫に特徴的な症状というわけではないため、診断されるまでに時間がかかる場合も多いです。

次に多発性骨髄腫の検査を見てみましょう。

必要な検査について

多発性骨髄腫は抗体を作る形質細胞が悪性腫瘍になった病気なので、抗体を作ろうとする性質が残っています。ただし、ちゃんとした抗体を作ることができず、役立たずのタンパク質しか作ることができません。この役立たずのタンパク質のことを「Mタンパク」と呼びます。このMタンパクは血液検査や尿検査で見つけることができます。そのため、多発性骨髄腫が疑われた際には特殊な血液検査や尿検査をすることになります。

血液検査や尿検査でMタンパクが見つかった場合には多発性骨髄腫の可能性が高いです。骨髄腫の細胞は血液を作る場所である骨髄の中で増えますので、骨髄を調べる「骨髄検査」を受ける必要があります。骨髄検査で形質細胞の割合が増加していたら、多発性骨髄腫の確定診断となります。

骨髄検査と並行して、骨折をしていないか、骨がもろくなっていないかを調べるために全身のX線検査やCT検査を受けます。病気の場所を見つけるために、近年ではMRI検査やPET-CT検査も有効だと報告されていますので、MRI検査やPET-CT検査を受ける場合もあります。

上記の検査で治療が必要な多発性骨髄腫の診断となった場合には治療を受ける必要があります。

 

多発性骨髄腫の治療について

残念ながら現代の医療では多発性骨髄腫を完治させることはできません。そのため、いかに長い期間病気が再発しないようにできるかが重要になります。

多発性骨髄腫の治療は比較的若い人(65-70歳以下)か高齢な人か(65-70歳以上)で治療が大きく分かれます。

比較的若い人は、自家移植と呼ばれる強力な治療を受けることを目標に治療を行います(自家移植については今後解説したいと思います)。自家移植を受ける前に化学療法を実施し、骨髄腫細胞をある程度まで減らしたところで自家移植を行います。自家移植により再発しない期間が長くなることが期待できます。

高齢な方は自家移植を受けることができませんので、化学療法のみで治療を行います。以前はあまり良い化学療法がなかったのですが、近年は治療効果の高いお薬がたくさん使えるようになり、飛躍的に治療が良くなりました。そのため、化学療法のみでも比較的長く病気を抑えることができるようになってきました。

どのようなお薬があって、どんな効果や副作用があるかについてはこの記事には書ききれませんので、また解説したいと思います。

 

※この記事は日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドラインを参照して作られています。

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