こんにちは、内科医κです。
血液内科医として勤務する中で、患者さんや研修医の先生向けの血液の病気についての情報が不足していると感じており、少しでもお役に立てればと情報発信しています。
急性骨髄性白血病はどんな病気か
本日は「急性骨髄性白血病」についてお話ししたいと思います。血液の悪性腫瘍の中では悪性リンパ腫の次に多い病気になります。
白血病とは、血液の細胞の一種の白血球が勝手にどんどん増えていく、血液の悪性腫瘍の一種です。白血球は全身を巡って体を守る免疫を構成する細胞たちですので、この白血球が悪性腫瘍になると、体の様々な部分で悪さをすることがあります。また、悪い白血球が増える分、正常な白血球が減ってしまうので、免疫力が低下する場合もあります。
大人の白血病はこの急性骨髄性白血病のことが多いです。言葉を分解していくとどんな白血病かわかりやすいので、少しずつ見ていきましょう。
急性ってどういう意味?
白血病には「急性」と「慢性」の二つのタイプがあります。厳密にいうと少し違う部分もあるのですが、イメージとしては「急性」は急激に症状が変化していく、「慢性」はほとんど症状が変化しない、というニュアンスです。
具体的には慢性白血病は白血球という血液の細胞数が増えるけど、その他の種類の血液の細胞(赤血球、血小板)はあまり変わらないという特徴があります。一方で急性白血病は白血球の数がどんどん増えていきながら、赤血球と血小板は急激に減少していくという特徴があります。赤血球と血小板が低下すると、強い息切れが出たり、血が止まらなくなってしまいます。最悪の場合には命を落とすこともあります。そのため、慢性白血病は外来でゆっくりと調べて治療という流れになりますが、急性白血病が疑わしい場合には即入院して、検査と治療を受ける流れになります。
骨髄性ってどういう意味?
白血病になる細胞の種類によって、「骨髄性」と「リンパ性」の二つのタイプに分かれます。将来骨髄球になる細胞が白血病になると骨髄性白血病、将来リンパ球になる細胞が白血病になるとリンパ性白血病となります。「骨髄性」と「リンパ性」では治療が変わってきますので、この二つを分けることは大変重要です。子供の白血病はリンパ性が多いですが、大人の白血病は骨髄性が多いといった特徴もあります。
これらの二つの言葉を合わせると、急性骨髄性白血病は骨髄球系の細胞が悪性腫瘍になった急激に進行する病気だと分かります。
どんな検査をするの?
まず血液検査で白血球数の増加、貧血や血小板が減っているかどうかを確認します。また、LDHと呼ばれる検査値が高くなったり、白血病の細胞が勝手に壊れてしまうことで尿酸(痛風と関係する物質)が異常に高くなることがあります。その他、血液を固める力がおかしくなってしまうこともあります。
血液検査で急性骨髄性白血病が疑われた場合には「骨髄検査」を受ける必要があります。血液の細胞は骨髄という骨の中で作られるので、骨髄の一部を採取することで白血病の種類であったり、白血病細胞の割合などを調べることができます。
また急性骨髄性白血病の人は免疫力が低下してしまい、感染症を発症していることがあるので、血液に細菌が混じっていないかの検査(血液培養検査)やCT検査で肺炎などがないかの確認をする場合があります。
治療はどうなるの?
一般的には2つの薬を組み合わせた化学療法、いわゆる抗がん剤による治療になります。多くはイダルビシンとシタラビン、もしくはダウノルビシンとシタラビンというお薬を用いた寛解導入療法(白血病の細胞を症状が出ないレベルまで減らす治療)を受けます。抗がん剤なので、副作用として吐き気や下痢、脱毛などが生じます。また、長期間(約1ヶ月間)血液の細胞を作ることができなくなる状態になるため、防護環境(以前は無菌室と呼ばれていました)で過ごしてもらう必要があります。非常に感染症に弱い状態のため、血液の中を細菌が暴れ回る敗血症という病気になることも多いです。
1ヶ月程度経過すると、寛解導入療法の副作用が落ち着いて無事に正常な血液の細胞が回復してきます(これを寛解と呼びます)。この状態ではまだたくさんの白血病の細胞が残っています。そのため、さらに白血病の細胞を減らしてゼロにすることを目指すため、地固め療法と呼ばれる追加の化学療法を受ける必要があります。この治療を受けたときも1ヶ月弱血液の細胞を作れなくなりますので、引き続き防護環境で過ごす必要があります。
上記のように今までの急性骨髄性白血病の治療は非常に副作用も強かったため、高齢者やそのほかに病気を持っている方には耐えられない治療でした。しかし、今年2021年に入って、アザシチジンとベネトクラックスという二つのお薬を組み合わせた治療が日本でも承認されました。この治療は今までの治療に比べると血液の細胞が減るという副作用が少なく、高齢者や病気を持っている方でも受けられる可能性があります。
※この記事は日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドラインを参照して作られています。