こんにちは、内科医κです。
今回は、赤血球輸血についてお話ししたいと思います。
研修医の先生は、貧血の患者さんを診察したときに「Hbがいくつになったら輸血すればよいのだろう?」と迷った経験はありませんか? 私も研修医のときは、輸血の基準を数字で覚えようとしていました。
一般的に、赤血球輸血ではHb 7 g/dLという数字がよく登場します。しかし、この数字はすべての患者さんに当てはまるわけではありません。
今回は、日本輸血・細胞治療学会の「輸血療法実践ガイド」を参考に、赤血球輸血の基本的な考え方を整理してみたいと思います。
なぜ赤血球輸血が必要なの?
当たり前ですが、赤血球の主な役割は酸素を運搬することです。ただ、意外と臨床の現場では、このことを十分にイメージできていない場合もあるのではないでしょうか。
少し生理学の話になりますが、動脈血酸素含有量(CaO₂)は次の式で表されます。
CaO₂ = 1.34 × Hb × SaO₂ + 0.003 × PaO₂
ここで、Hbはヘモグロビン濃度(g/dL)、SaO₂は動脈血酸素飽和度(0〜1の割合)、PaO₂は動脈血酸素分圧(mmHg)です。
この式を見ると、Hbが低下すれば、たとえ酸素飽和度が100%であっても、血液が運べる酸素の量は減少することがわかります。つまり、SpO₂が100%だからといって、組織に十分な酸素が供給されているとは限らないのです。
さらに、組織への酸素供給量は、動脈血酸素含有量と心拍出量によって決まります。そのため、貧血になっても心拍出量の増加や組織での酸素抽出率の上昇などによって、ある程度は代償することができます。
しかし、貧血が進行して代償が難しくなると、組織への酸素供給が不足する可能性があります。そこで、赤血球輸血によって酸素運搬能を改善する必要が出てくるわけです。
赤血球輸血はHb 7 g/dLが目安?
では、どのくらいのHb値になったら輸血が必要なのでしょうか?
日本輸血・細胞治療学会の「輸血療法実践ガイド」(2026年)では、これまでの臨床試験の結果から、Hb 7〜8 g/dLを輸血開始の目安とする制限的輸血戦略が、多くの患者さんで有効であることが説明されています。
ただし、輸血の目安となるHb値は、患者さんの病態によって異なります。
例えば、造血器腫瘍の化学療法中や周術期などでは、Hb 7〜8 g/dLを輸血開始の目安とすることが推奨されています。また、心臓手術ではHb 7.5〜8 g/dL、急性冠症候群などではHb 8〜10 g/dLを目安とすることが提案されています。ただし、後者については推奨の強さやエビデンスの確実性に注意が必要です。
このように、Hb 7 g/dLはすべての患者さんに共通する絶対的な輸血基準ではありません。
Hbだけで輸血を決めてはいけない
以前、Hb 5 g/dL台の若い女性の鉄欠乏性貧血の患者さんを紹介されたことがあります。
もともと貧血があり、今回さらに悪化したとのことでした。息切れの症状はありましたが、バイタルサインは安定していました。
もちろん、Hb 5 g/dL台という高度の貧血であり、輸血の必要性も慎重に検討する状況です。そのうえで、貧血の経過や患者さんの状態を踏まえ、ご本人に頻回の受診をお願いしながら、鉄補充による治療を選択しました。
幸い、治療開始後にHbは上昇に転じ、輸血を回避することができました。
実は、先ほどの「輸血療法実践ガイド」でも、鉄欠乏性貧血については、生命維持に支障をきたす場合を除き、赤血球輸血よりも原疾患の治療を優先することが提案されています。
ただし、これはHb 5 g/dL台でも輸血は不要という意味ではありません。 実際には症状や循環動態、貧血の進行速度などを考慮して判断する必要があります。
一方、Hb 8.5 g/dLであっても、活動性出血や心筋虚血などがあれば、輸血を検討することがあります。また、急性大量出血では、出血直後のHbが必ずしも低下していないことにも注意が必要です。
つまり、輸血の判断にはHbの値だけでなく、患者さんの背景、貧血の進行速度、症状、循環動態、基礎疾患などを考慮する必要があります。
輸血の適応を考えるときには、数字だけでなく患者さんを診ることが大切です。
もっとも、臨床的に必要と判断した輸血でも、保険診療上は検査値による判断が重視されることがあり、難しさを感じる部分でもあります……。
赤血球輸血はどれくらい投与する?
赤血球輸血を行う場合には、どのくらいHbを上昇させたいのかを考えます。
日本で使用されている赤血球製剤では、体重60 kgの成人に2単位を輸血すると、Hbが約1.3 g/dL上昇することが一つの目安になります。ただし、実際の上昇幅は体重や循環血液量、出血の有無などによって異なります。
体重ごとのHb上昇量の目安については、日本赤十字社の医薬品情報にわかりやすく記載されていますので、興味のある先生はぜひ確認してみてください。
輸血後にはHbを確認し、必要に応じて追加輸血を検討します。特に出血している患者さんで、予測したほどHbが上昇しなかった場合には、出血が持続している可能性も考える必要があります。
一方、循環動態が安定した患者さんでは、最初から大量に輸血するのではなく、必要最小限の輸血を行い、その効果を評価することが重要です。
まとめ
赤血球輸血では、Hb 7 g/dLという数字が重要な目安になります。しかし、すべての患者さんに当てはまるわけではありません。
輸血を考えるときには、Hbの値だけでなく、患者さんの症状や循環動態、基礎疾患などを評価することが大切です。
Hb 7 g/dLは魔法の数字ではありません。
次回は、血小板輸血とFFPについてお話ししたいと思います。
それでは、また次回!
参考文献・参考資料
日本輸血・細胞治療学会ガイドライン委員会.輸血療法実践ガイド.日本輸血細胞治療学会誌.2026;72(3):521–570.
日本赤十字社.輸血用血液製剤 医薬品情報(赤血球製剤の投与による予測Hb上昇量に関する資料).
