こんにちは、内科医Kappaです。
今回は、輸血前に行う検査についてお話ししたいと思います。
研修医の先生は、赤血球輸血をオーダーするときに「クロスマッチを出してください」と言われて戸惑った経験はありませんか?
私も研修医のときは、クロスマッチが何を調べている検査なのか、あまりよく理解していませんでした。また、不規則抗体という言葉も、最初は「何のために調べるの?」という感じで、全く理解できていませんでした。
今回は、輸血を安全に行うために必要な検査について整理してみたいと思います。
なぜ輸血前に検査が必要なの?
輸血は、他人の血液成分を患者さんの体内に投与する治療です。
そのため、血液型が適合していない赤血球を輸血すると、免疫反応によって赤血球が破壊されることがあります。
特にABO不適合輸血では、急性溶血性輸血反応を起こし、重篤な場合には生命に関わることがあります。
こうした副反応を防ぐために、輸血前には血液型検査や不規則抗体検査、交差適合試験などを行います。
クロスマッチとは?
「クロスマッチを出してください」と検査室から言われることがありますよね。
クロスマッチは、正式には交差適合試験と呼ばれます。
患者さんの血漿と輸血予定の赤血球を反応させ、凝集や溶血が起こらないかを確認する検査です。
つまり、実際に輸血する赤血球が、その患者さんに適合しているかを確認する検査です。患者さんの血液と輸血する赤血球が反応しないか、あらかじめ試験管内で確認するイメージですね。
ただし、交差適合試験で適合していても、すべての輸血副反応を防げるわけではありません。例えば、アレルギー反応や輸血関連循環過負荷(TACO)などは、交差適合試験では予測できません。
また、一定の条件を満たす患者さんでは、コンピュータクロスマッチ(電子的交差適合試験)を利用して、血清学的な交差適合試験を省略できる場合もあります。
また難しい言葉が出てきましたね。笑
コンピュータクロスマッチについては、今回は詳しい説明を省略しますが、検査結果や患者情報をコンピュータで照合し、輸血する赤血球製剤との適合性を確認する方法です。
なお、輸血前検査では、検査そのものだけでなく、患者さんの取り違えを防ぐための採血時の本人確認や、適切な時期に採取された検体を使用することも重要です。
不規則抗体とは?
不規則抗体は、研修医になって「なんだこの検査は?」となる検査の代表例ではないかと、私は勝手に思っています。
不規則抗体とは、ABO血液型の抗A・抗B抗体以外の、赤血球抗原に対する抗体のことです。
実は赤血球には、ABO式以外にもたくさんの血液型(抗原)があるんです。代表的なものには、Rh血液型系、Kidd血液型系、Duffy血液型系などがあります。
これらの赤血球抗原に対する抗体は、輸血や妊娠などによって産生されることがあります。また、輸血や妊娠の経験がなくても存在する抗体もあります。
例えば、過去に輸血を受けた患者さんが、そのときに輸血された赤血球の抗原に対する抗体を産生することがあります。
その後、同じ抗原を持つ赤血球が再び輸血されると、免疫反応によって輸血された赤血球が破壊される可能性があります。
ただし、不規則抗体にはさまざまな種類があり、すべてが輸血時に問題となるわけではありません。
臨床的に重要な不規則抗体を持つ患者さんに、その抗体と反応する抗原を持つ赤血球を輸血すると、急性または遅発性の溶血性輸血反応を起こすことがあります。
そのため、臨床的に重要な不規則抗体が検出された場合には、原則として対応する抗原を持たない赤血球製剤を選択する必要があります。
不規則抗体は消えることがある?
ここが少し面白いところです。
不規則抗体は、一度産生されても、時間の経過とともに血液検査で検出できなくなることがあります。
しかし、抗体が検出されなくなったからといって、免疫学的な記憶までなくなったわけではありません。
再び対応する抗原を持つ赤血球が輸血されると、免疫記憶によって抗体が急速に産生され、溶血性輸血反応を起こすことがあります。
これは遅発性溶血性輸血反応の原因の一つです。
そのため、過去に臨床的に重要な不規則抗体が検出された患者さんでは、現在の検査が陰性でも注意が必要です。
現在の検査結果だけでなく、輸血歴や妊娠歴、過去の不規則抗体の情報を確認することが、輸血を安全に行ううえで重要になります。
Type & Screenとは?
私が外科の研修をしていたとき、「この患者さんの輸血はType & Screen(T&S)でオーダーしておいて」と言われたことがあります。
当時は「内容はよくわからないけど、とりあえず言われた通りにオーダーするか」という感じでした。今となっては恥ずかしい限りですが、医学生時代に習わなかったからと言い訳しています。笑
Type & Screen(T&S)は、主に輸血の可能性が低い待機手術などで用いられる輸血準備の方法です。
あらかじめ患者さんのABO・RhD血液型と不規則抗体を検査し、一定の条件を満たす場合には、交差適合試験や赤血球製剤の確保を事前には行わずに手術などに臨みます。実際に輸血が必要になった場合には、施設の運用に従って適合性を確認し、赤血球製剤を準備します。
では、なぜこのような方法が必要なのでしょうか?
例えば、輸血する可能性が10%程度の手術を受ける患者さんが10人いたとします。
全員に赤血球製剤を2単位ずつ確保すると、合計20単位が必要になります。しかし、実際にはほとんどの患者さんが輸血を必要としないかもしれません。
患者さんごとに赤血球製剤を確保すると、その間は他の患者さんに使用できる在庫が減ってしまいます。また、適切に在庫を管理できなければ、製剤が使用されないまま期限切れになる可能性もあります。
そこで、輸血の可能性が低く、事前検査で条件を満たした患者さんについては、赤血球製剤をあらかじめ確保せず、必要になった時点で準備するという方法が考えられました。
これがT&Sです。
もちろん、T&Sであれば誰でも交差適合試験を省略して輸血できるわけではありません。
日本では、原則としてRhD陽性で不規則抗体が陰性であることなどがT&Sの適用条件となります。また、実際に輸血する際には、施設の運用に従って必要な適合性確認を行います。
T&Sは、輸血の安全性を確保しながら、限りある血液製剤を有効に利用するための仕組みなのです。
まとめ
今回は、輸血前に行う検査についてお話ししました。
血液型検査はABO・RhD血液型を確認する検査、不規則抗体検査はABO血液型の抗A・抗B以外の赤血球抗体を調べる検査、交差適合試験は輸血予定の赤血球との適合性を確認する検査です。
また、T&Sは輸血の可能性が低い患者さんに対して、赤血球製剤を必要以上に確保せず、効率的に準備するための方法です。
それぞれの役割を理解しておくと、輸血をオーダーするときにも迷いにくくなると思います。
今回で、研修医向けの輸血シリーズは終了です。
輸血は多くの診療科で行われる治療ですが、他人の血液成分を患者さんの体内に投与するという意味では、一種の移植医療と考えることもできます。適応や安全管理について考えるべきことは意外と多いものです。
私自身、研修医の頃は輸血についてわからないことがたくさんありました。今回のシリーズでは、当時の自分が知っておきたかったことを中心にまとめてみました。
このシリーズが、研修医の先生にとって輸血を理解するきっかけになれば幸いです。
参考文献
日本輸血・細胞治療学会.赤血球型検査(赤血球系検査)ガイドライン(改訂5版).日本輸血細胞治療学会誌.2025.
