こんにちは、内科医Kappaです。
今回は、医学論文でよく登場するKaplan–Meier曲線(KM曲線)についてお話ししたいと思います。
KM曲線は、臨床試験の論文や学会発表などでよく見かけるグラフです。特に悪性腫瘍の臨床試験では、治療の有効性を示すためによく使われています。
今では当たり前のようにKM曲線を見ていますが、実は私も後期研修医になった頃は、その意味をほとんど理解できていませんでした。
医師4年目のとき、製薬会社の薬剤説明会で治療の有効性を示すKM曲線が出てきたことがありました。しかし、当時の私はKM曲線が何を意味しているのかよくわかっておらず、説明を聞いても十分に理解できなかったことを覚えています。
転機になったのは、医師5年目のときです。学会発表のために自分でKM曲線を作る機会があり、実際に患者さんのデータを使って曲線を作ってみると、それまでよくわからなかったことが少しずつ理解できるようになりました。
例えば、イベントと打ち切り(censoring)の違いや、number at riskの意味などです。また、曲線の最後の方は、最初の方と同じように解釈してはいけないことも知りました。やはり、自分でやってみると理解が深まるものですね。
今回は、当時の自分に説明するつもりで、KM曲線の基本的な仕組みと読み方について紹介したいと思います。
難しい数式は登場しませんので、気軽に読んでいただければと思います。なお、私は医学統計の専門家ではありませんので、今回は臨床医の立場から、KM曲線を理解するための基本的な考え方を紹介します。
Kaplan–Meier曲線は何を表しているの?
まず、KM曲線が何を表しているのかを確認しましょう。
KM曲線は、ある時点までイベントが発生せずに経過する確率を推定したグラフです。ここでいう「イベント」は、研究によって異なります。
例えば、全生存期間(overall survival:OS)では死亡がイベントになります。一方、無増悪生存期間(progression-free survival:PFS)では、一般的に病気の増悪または死亡がイベントになります。
横軸は時間、縦軸はイベントが発生せずに経過する確率を表しています。つまり、ある時点までイベントを起こさずに経過する患者さんの割合を推定しているのです。
イベントの内容によってKM曲線が何を意味するかが変わりますので、KM曲線を読むときには、まず何をイベントとして定義しているのかを確認することが大切です。
実際にKM曲線を作ってみよう
ここからは、架空の5人の患者さんを例に考えてみましょう。今回は、死亡をイベントとするOSのKM曲線を作ることにします。
実は、KM曲線を作るのに必要な情報は意外と少なく、基本的には患者さん一人ひとりの観察期間と、イベントが発生したかどうかの情報だけです。
私が初めてKM曲線を作ろうとしたときも、必要な情報がこれだけだと知って、「これだけであの複雑そうな曲線が作れるんだ!」と驚いた覚えがあります。
今回は5人の患者さんについて、次のようなデータが得られたとします。
| 患者さん | 観察期間 | 結果 |
|---|---|---|
| Aさん | 2か月 | 死亡 |
| Bさん | 3か月 | 打ち切り |
| Cさん | 5か月 | 死亡 |
| Dさん | 7か月 | 打ち切り |
| Eさん | 9か月 | 死亡 |
ここで「打ち切り」という言葉が出てきました。これはKM曲線を理解する上で、とても重要な概念です。
イベントと打ち切り(censoring)は何が違うの?
例えば、Aさんは観察開始から2か月後に死亡しました。今回の研究では死亡をイベントとしているので、Aさんには2か月時点でイベントが発生したことになります。
一方、Bさんは3か月時点で観察が終了しましたが、その時点では生存していました。こういった状況は、例えば、転院によってその後の経過がわからなくなった場合や、研究の観察終了時点まで生存していた場合などが考えられます。
このように、イベントが確認されないまま観察が終了することを、打ち切り(censoring)と呼びます。
ここで大切なのは、打ち切りになった患者さんは、その後もずっと生存していることが確認されたわけではないという点です。Bさんについてわかっているのは、3か月時点までは生存していたということだけです。
では、イベントと打ち切りでは、KM曲線にどのような違いが生じるのでしょうか?
なぜKM曲線は階段状になるの?
先ほどの5人の患者さんを使って、KM曲線がどのように作られるのか考えてみましょう。

観察開始時点では5人全員が生存しているので、生存率は100%です。
2か月時点でAさんが死亡しました。この時点では5人が観察対象になっているため、5人中1人が死亡したことになります。その結果、推定生存率は100%から80%に低下します。
次に、3か月時点でBさんが打ち切りになりました。しかし、打ち切りは死亡ではありません。そのため、打ち切りが起きてもKM曲線は下がりません。ただし、Bさんはそれ以降の観察対象から外れることになります。
続いて、5か月時点でCさんが死亡しました。この時点で観察が続いているのはCさん、Dさん、Eさんの3人です。つまり、3人のうち1人が死亡したことになります。
ここで少し注意が必要です。最初の5人中2人が死亡したからといって、生存率が60%になるわけではありません。
KM曲線では、それまでの推定生存率80%に、今回のイベントを起こさずに経過する割合である2/3(3人のうち2人がイベントを起こしていない)を掛けます。その結果、推定生存率は約53%になります。
さらに7か月時点でDさんが打ち切りになり、9か月時点でEさんが死亡すると、推定生存率は0%になります。
このように、KM曲線はイベントが発生した時点で階段状に下がっていきます。一方、打ち切りが発生しても曲線は下がりません。
ただし、打ち切りによって、その後の生存率の推定に使える患者さんの数は減っていきます。そのため、同じ1人のイベントでも、number at riskが少ないほど、その時点での生存率の相対的な低下は大きくなります。
これがKM曲線を理解する上で重要なポイントです。
Number at riskって何?
KM曲線の下には、number at riskという数字が書かれていることがあります。これは、その時点でイベントが発生しておらず、まだ観察が続いている患者さんの数を表しています。
先ほどの5人の例で考えてみましょう。
観察開始時点では5人全員がnumber at riskに含まれています。2か月時点でAさんが死亡すると、その後のnumber at riskは4人になります。3か月時点でBさんが打ち切りになると、さらに3人になります。そして5か月時点でCさんが死亡すると、その後は2人になります。
このように、時間が経過するにつれて、イベントや打ち切りによってnumber at riskは減っていきます。
なお、実際の論文では、number at riskは通常、あらかじめ決められた時点(1か月ごと、6か月ごと、1年ごとなど)で表示されます。イベントがその時点で発生した場合などの扱いは、集計方法によって異なることがあります。
ここで大切なのは、number at riskは、最初に登録された患者さんのうち何人が生存しているかを表す数字ではないということです。生存していても、すでに打ち切りになった患者さんはnumber at riskには含まれません。
そして、このnumber at riskを理解すると、KM曲線を読むときに注意しなければならないことが見えてきます。
KM曲線の最後の方は信用してよいの?
ここは、今回の記事で特にお伝えしたいところです。
私は以前、KM曲線の最初の方も最後の方も、同じくらい信頼できるものだと思っていました。しかし、実際には曲線の後半になるほど、推定値の不確実性が大きくなることが少なくありません。
例えば、100人の患者さんを対象にした研究を考えてみましょう。観察開始時点では100人がnumber at riskに含まれています。このとき1人が死亡すると、その時点での条件付き死亡割合は1%です。
一方、観察期間の後半になって、number at riskが5人まで減っていたとします。この5人のうち1人が死亡すると、その時点での条件付き死亡割合は20%になります。
つまり、number at riskが少なくなるほど、たった1人のイベントでもKM曲線が大きく下がることがあるのです。
なお、ここでいう1%や20%は、その時点で観察が続いている患者さんのうち、イベントが発生した割合です。KM曲線全体の生存率が、そのまま1ポイントや20ポイント下がるという意味ではありません。
また、観察対象となっている患者さんが少なくなると、一般的に推定生存率の不確実性も大きくなります。

例えば、median follow-up(追跡期間の中央値)が18か月の研究で、36か月時点までKM曲線が描かれていたとします。
このとき、36か月時点の推定生存率が70%だったとしても、その数字を18か月時点の推定生存率と同じように解釈してよいとは限りません。36か月時点では、観察が続いている患者さんがごく少数かもしれないからです。
KM曲線が36か月まで描かれていることと、36か月時点の生存率が十分な精度で推定されていることは別なのです。
そのため、KM曲線を読むときには、曲線だけでなくnumber at riskも確認することが重要です。また、信頼区間が示されていれば、それも参考になります。
ただし、曲線の後半だから必ず信頼性が低いというわけではありません。追跡期間が長く、十分な患者さんが観察されていれば、後半の推定値も有用です。
逆に、median follow-upが長い研究でも、特定の時点でnumber at riskが少なければ、その時点の推定値には注意が必要です。
大切なのは、曲線のどの部分が、どのくらいの患者さんの情報に基づいて推定されているのかを意識することです。
まとめ:KM曲線は、曲線だけを見ないことが大切
今回は、Kaplan–Meier曲線の基本的な仕組みについて紹介しました。
ポイントを整理すると、次のようになります。
- KM曲線は、イベントが発生せずに経過する確率を推定したグラフです。
- イベントが発生すると曲線は下がりますが、打ち切りでは下がりません。
- Number at riskは、その時点でイベントが発生しておらず、観察が続いている患者さんの数です。
- Number at riskが少なくなると、少数のイベントが曲線に大きく影響することがあり、推定値の不確実性にも注意が必要です。
私自身、医師5年目で初めてKM曲線を作ったとき、それまで何となく眺めていたグラフの意味がようやく理解できるようになりました。
医学統計というと難しい数式をイメージするかもしれませんが、まずは実際のデータからグラフがどのように作られるのかを考えてみると、理解しやすくなると思います。
ぜひ、次に論文でKM曲線を見かけたときには、曲線の形だけでなく、イベントの定義やnumber at riskにも注目してみてください。
次回は、2つのKM曲線を比較するときに登場するLog-rank検定やハザード比について紹介したいと思います。
