学生時代は嫌いだった生理学が、麻酔科の研修で好きになった話

こんにちは、内科医Kappaです。

突然ですが、医学生の皆さん、基礎医学は好きですか?私は、あまり好きではありませんでした。

お医者さんになりたくて医学部に入ったのに、始まったのは、なんだか「ヒトに特化した生物」の授業。もちろん大切な勉強なのですが、当時の私は「それで、いつになったら医者らしいことを勉強するんだろう」と思っていました。

その「医者らしいこと」を理解するために必要だったんですけどね。そこに気づくまで、かなり時間がかかりました……

今回は、そんな私が麻酔科の研修を通じて、生理学への見方を変えた話です。

試験が終わると生理学も去っていった

生理学は、個人的には基礎医学の中でも、とっつきにくい科目の一つでした。好きな方には申し訳ありません。完全に私の問題です。

特に呼吸生理。次々と出てくる計算式を前に、「今、何を求めているんだっけ」と、計算以前のところで迷子になっていました。試験でも、うまく解けなかったような気がします。ただ、ずいぶん前のことなので記憶は曖昧ですが……

当時いちばん困っていたのは、「これを覚えて、何に使うのか」が見えなかったことでした。目の前に患者さんがいるわけでもなく、計算した答えが何につながるのかも、ぴんとこない。教科書の中だけで完結する話のように感じていたのです。

そんなわけで、試験前になんとか頭に詰め込み、試験が終われば少しずつ忘れる。残念ながら、生理学の知識は私の頭に長期滞在してくれませんでした。

麻酔科で見た指導医の先生のすごさ

時は流れ、私は初期研修医になりました。

研修が始まるにあたり、同期とローテーションの順番を決め、私は最初に麻酔科を回ることになりました。とはいえ、こちらは医者になったばかり。手技もおぼつかず、指導医の先生に教わったことを覚えるだけで精いっぱいです。

その一方で、先生方は患者さんの状態を見ながら、次々と判断し、対応していきます。

すごい。とにかく、すごい。

今なら、何を見て、どう考えていたのか、当時よりは理解できると思います。でも、その頃の私は、そのすごさを説明するための知識すら足りていませんでした。

研修先が三次救急を担う病院だったこともあり、その後、ほかの診療科でも重症の患者さんを担当する機会がありました。そうした経験から、集中治療をしっかり勉強したいと思うようになりました。そこで、もう一度、麻酔科で研修することにしました。

ICUの教科書で生理学と再会する

二度目の研修では、最初の頃よりは手技にも慣れ、患者さんの全身管理について勉強する余裕が出てきました。

そこで、隙間時間にICUの教科書を読み始めたのですが、これがなかなか読み進められません。

循環の話には前負荷や後負荷。呼吸の話には肺胞の酸素分圧。

「……あなた、どこかでお会いしましたよね?」

なんと、学生時代に勉強したはずの生理学が、あちらこちらに登場するのです。

ただ、こちらはすっかり忘れています。見覚えはあるのに、何の話だったか説明できない。教科書を読み進めるつもりが、まずは生理学を調べ直すところからのスタートになりました。

ところが、生理学を調べ直してからもう一度教科書を読むと、それまでよく分からなかった文章が、少しずつ分かるようになりました。

血圧が下がったとき、何が起きていると考えるのか。人工呼吸器の設定を、なぜそのように調整するのか。血液ガスの結果から、何を読み取るのか。

それまで「こういうときは、こうする」と型で覚えていた対応について、なぜそうするのか、その理由が見えてきました。

「ああ、基礎医学って、こういうことを理解するために必要だったんだ」

このとき、ようやく心の底から基礎医学の大切さに納得できた気がします。

学生時代の自分に教えてあげたいところですが、たぶん「そう言われても、試験に出るところを先に教えて」と返されそうです。

計算式の先に患者さんがいた

特に手術中の麻酔管理では、患者さんの状態を考え、それに応じて行動し、その結果を確かめる、というサイクルが短い時間で繰り返されます。

勉強したことをもとに患者さんの状態を考え、指導医の先生と相談しながら対応する。そして、その後の変化を見る。教科書で読んだことと、目の前で起きていることがつながる機会が、何度もありました。

学生時代には、何のために使うのか分からなかった知識です。それが、患者さんの状態を理解する手がかりになる。そうなると、不思議なもので、あんなに苦手だった生理学をもっと知りたくなりました。

計算式そのものが急に親しみやすい顔になったわけではありません。でも、その先に患者さんがいると分かったことで、向き合い方が変わったのだと思います。

今は面白くなくても

臨床に出てから、基礎医学の知識に助けられる場面は、きっといろいろな診療科にあると思います。私の場合は、そのつながりを実感した場所が麻酔科でした。

だからといって、今、目の前の勉強を面白いと思えない学生さんに、「将来役立つんだから、楽しんで勉強しましょう」とは、なかなか言えません。私自身、楽しめていませんでしたし、しっかり忘れもしました。あまり偉そうなことを言える立場ではありません。

ただ、「今は何の役に立つのか分からなくても、あとからつながることはある」とはお伝えしたいです。

しかも、一度忘れたら終わり、というわけでもありません。私も必要になってから調べ直し、ようやく理解できたことがたくさんありました。

勉強する意味が見えなくなったときは、「そういえば、医者になってから生理学の面白さに気づいた人もいたな」と、思い出してもらえたらうれしいです。

学生さんも、研修医の皆さんも覚えることが多くて大変ですよね。私も相変わらず、勉強しては忘れ、また調べています。

ときどき「なるほど、そういうことだったのか」と思える瞬間を楽しみに、お互い頑張っていきましょう。

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